講演1　『機能性表示食品の開発支援とその実績』

静岡県立大学 食品環境研究センター センター長 特任教授　若林　敬二 氏

我が国は超高齢社会を迎え、食材を通した疾病の予防対策の確立は極めて重要な課題となっています。本県は、国内でも有数の健康長寿地域として知られており、その要因の一つとして、県内で生産されているお茶や柑橘類を代表とする農作物の摂取が寄与していると考えられています。そこで、本学は平成26年、大学院食品栄養環境科学研究院の附置施設として食品環境研究センターを開設し、地域における健康福祉の向上と産業の活性化に資することを目的として、静岡県と協力し、機能性表示食品の開発支援を行っています。即ち、静岡県特産の農水産物、加工食品等の機能性について文献調査（システマティックレビュー）を行い、それらの成果を整理して消費者庁に届出を行い、機能性表示食品の認可を得ています。

機能性表示食品実績例

現時点で、茶カテキン、DHA・EPA、GABA、イヌリン、スルフォラファングルコシノレート等の機能性関与成分を含む50件を超す機能性表示食品が消費者庁のHPに公開されています。更に、これら機能性表示食品の資料は、健康食イノベーション推進事業の支援のもとで作成した機能性食品素材データベースにまとめられ、本学が中心となり研究を進めている、その他の食品の機能性素材情報と共に本学健康食イノベーション推進事業HP上 に公開されています。本講演では、これらの実績について紹介します。

【略歴】
1977年静岡薬科大学大学院博士課程修了、1979年国立がんセンター研究所研究員、生化学部長等を経て、2007年国立がんセンター研究所所長を歴任し、2011年静岡県立大学環境科学研究所教授、2014年静岡県立大学食品栄養環境科学研究院 特任教授,　食品環境研究センター センター長に就任し現在に至る。日本環境変異原学会、日本癌学会、日本がん予防学会、薬学会などに所属。これまで厚生労働省や静岡県の公職を多数歴任。

講演2　『mRNAワクチンの基礎研究と社会実装』

静岡県立大学　薬学部　薬学科　教授　浅井　知浩 氏

近年の科学技術の進展により、メッセンジャーRNA（mRNA）という物質が医療に応用されるようになりました。mRNAは、タンパク質の設計図の役割を担う分子です。適切な方法でmRNAを生体に投与すると、体の中でその設計図どおりに組み立てられたタンパク質ができます。世界で初めてmRNAが医薬品化された例は、coronavirus disease 2019（COVID-19）に対するmRNAワクチンです。このmRNAワクチンを生体に投与すると、新型コロナウイルスに対する免疫を誘導する抗原タンパク質が体内でつくられます。mRNAワクチンの実用化に不可欠だった創薬技術のひとつが脂質ナノ粒子（lipid nanoparticle: LNP）技術です。

LNP模式図

mRNAワクチンのmRNAは、100 nm（1万分の1 mm）に満たない小さなLNPの中に内封されています（図）。LNPは、生体内の分解酵素からmRNAを保護し、細胞の中にmRNAを送り届ける役割を果たしています。現在、mRNAの医療応用は、他の感染症やがんなどの非感染症への展開が期待されていますが、そのためにはLNP技術のさらなる発展が必要です。そこで我々の研究室では、mRNAを様々な疾患の予防や治療に利用できるようにするため、効果の向上と副反応の軽減をもたらす独自のLNP技術に関する基礎研究を行っています。さらに、基礎研究の成果から誕生したLNP技術の社会実装を推進するため、静岡県立大学発ベンチャーのLuna RD株式会社を2021年に設立しました。本講演では、独自のLNP技術を用いたmRNAワクチンに関する基礎研究の成果とその社会実装の取り組みについて紹介します。

【略歴】
2002年3月静岡県立大学大学院薬学研究科博士後期課程修了（博士（薬学））。1999-2001年度日本学術振興会特別研究員。2002年4月三菱ウェルファーマ（現田辺三菱製薬）（株）研究員。2004年2月静岡県立大学薬学部講師、2013年４月同准教授、2018年４月同教授。2005年（3ヶ月）と2011年（1年間）に米国University of North Carolinaへ留学。2021年11月に静岡県立大学発ベンチャーのLuna RD（株）を設立し、取締役CTOとしてDDS技術の社会実装を目指している。

〈研究室HP〉https://w3pharm.u-shizuoka-ken.ac.jp/radiobio/

〈ベンチャーHP〉 http://luna-rd.com/

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